Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “遊ぼ。”
 


この冬初めて、この辺りの平地を覆うほどの雪が降ったのが、先週のこと。
あんまり風も冷たくはないままに秋から冬へと暦だけが過ぎてゆき、
どちらかといや暖かい冬だねと、
この隙に春も早く来ればいいのにねなどと言っていたのだが、
やはりそうそう甘くはないということか。

 『毎年こんなもんじゃあない深さで積もるだろうが。』

だから まだまだ序の口だ、油断はするなよ、よしか?と、
乱暴者に見せてその実、仲間や家族想いのお館様が、
家人の皆へとそのように触れて回って。
節季の挨拶にと、書生くんの実家のある須磨の蔵元から送られたお酒を、
寒さよけにと振る舞ったり、
雑仕、牛飼いにいたるまで、
暖かな綿入れを新調して下さるのももはや恒例のことなれば。

 『脂の乗った魚や肉を食うのも暖まるが、根っこ野菜も体を丈夫にするからの。』

実はご当人が一番好き嫌いをなさったものを、
小さな家人の手前、ちょっぴり甘い煮物も何とか口になさっている模様。
そんな食生活の成果なんだかあおりなんだか、
雑食傾向が一段と強くなってしまった仔ギツネのくう。

 「………ほや?」

庭先から立った とあるものの匂いに気がつくと、
誰も居なかった間合いだったのをいいことに、
几帳を掻き分け、御簾を掻き分け、
途端に冷たい空気がひらりとお鼻へ張りつく濡れ縁へと出て。
高さのある縁側に後ろ向きになっての這いつくばると、
あんよから“よいちょ”と下へ降りる。
見かけは綿入れ袷
(あわせ)に袴という組み合わせ、
単なる部屋着という簡単ないで立ちだけれども。
実は…ふっかふかな冬毛の身へ なむなむと咒を念じてそうと見せてる姿なので、
例えば同じかっこの人の和子ほど寒くはなくて。
それでも、裸足のまんまではあんよが結構寒かろに、
気になった匂いの方へとたかたか寄って。
塀に沿った辺りの、
枯れた草むらの株が寄り合うところへ小さなお鼻をくっつけて。

 「…☆」

あらためて“確認”出来た何かしら。
それへと“はやや〜っ”と身をのけ反らしてまで反応し、
それからそれから…小さなお手々でその場所を、
せっせせっせと掘り出し始めた、くうちゃんだったりしたのである。






せっせせっせと小さな手が掘ってたものが、
土くれから今は雪へと変わってて。
小枝みたいでか弱いお指が、
その先っちょを真っ赤にしているのは間違いなく冷たさのせい。
それでも音を上げることなく、よいちょよいちょと掘り進み、
時折その手が止まっては、真ん丸なお顔へ引き寄せられて、
ほうほうと白い息が吹きかけられる。
もちょっとと頑張って、一かき二かきしたところ、
やっと ぽこりと空洞が開いた。
わあ♪とお顔をほころばした幼子が、今度はどうしたかと言えば。
見ている者があったなら、慌てて制止しに飛んで来たかも知れぬ、
座り込んでた雪の上、それだけでも冷たいだろに、
そこへと空いた小さな穴へ、お顔をぼそりと突っ込んだのだ、
これはびっくりもするだろて。
お団子みたいに丸まって、雪へと突っ伏す格好になってた和子だが、
小さな穴を覗きたいのか、いやいやどうやらそこへと入りたいらしく。
ごそもそするうちその身が光り、ふしゅんと縮んで…別の姿へと様変わり。
辺りの雪景色には微妙に目立つ、茶色の毛並みの小さな獣。
お耳の大きな仔ギツネへと変わっており。
こちらの姿なら楽々入れたか、あっと言う間に雪の中へと埋まってしまった。

  ―― それからそれから

雪洞は途中から土の洞へと切り替わり、
小さな仔ギツネならば這いつくばらずとも進める大きさ。
それもやがてはすぐに広くなり、
上へも高さが増しての結構な洞窟だったことを知らしめる。
獣の眸には煌々とした明かりは要らぬが、
それでも奥へ進むと炎の匂い。
不思議な篝火が焚かれてある空間へと到着し、
飾りっけがないどころか、お道具自体がほとんど無い、
そんなお部屋の真ん中に、
住人だけが大の字になって横たわってる、寝床のお部屋。
やっと着いたと肩を落とすと、
四肢獣のまんまな小さな坊や、
暖かくもある篝火に照らされたその人の傍らまで寄ってゆき、
三角に尖ったお鼻の先にて、とんとんつんつん、相手をつっつく。
最初はお手々を持ち上げかけた。
でも、さっき雪を掘ってたのを思い出したの。
こんな冷たい手で触ったら、きっとあぎょんは びっくりしるから。
とんとんつんつん、起きて起きて。
こんな冷たい肩なのに、こんな冷たい頬っぺなのに、
お布団かぶらないで平気なの?
ねえ起きて起きてと、つつくのに夢中だったから気づかなかった、
大きなお手々が背中に回ってて、

 「…くぅおら。」
 「はやや〜〜〜っ!」

誰もいないはずなのに、後ろからぎゅうってされたから、
小さな仔ギツネ、びっくりしてピョンと跳ね上がりかけたほど。
おとと様と同じくらい大きいあぎょんだったから、
小さなくうの小さな背中へ、
本人が気づかないほど遠回りをしての手を回すことが出来たのらしくて、

 「何だなんだ。まだ冬なんだろに、起こしてくれやがってよ。」
 「したって、お庭に“こえ”があったもの。」

回り切らない舌で“これ”と言い、
いつの間にやら和子の姿に戻って差し出したもの。
小さな小さな緑の芽は、

 「……雪割草、か?」
 「うっっvv」

かぶ?があったの、まだいっぱい。だかあ じぇんぶは取ってないよ?
ただ、これが生えたら春が近いって、お館様が前にゆってたからあのね?

 「あぎょんにも見せたかったの。」
 「そうかいそうかい。」

お子様は遊ぶのが仕事だかんなぁと、
こちらさんは寝るのが仕事なのを叩き起こされた蛇神様、
相手がこの子じゃなかったら、
折り返し地点のお祝いのおやつに、ぺろっと一呑みしとるとこだぞと、
寝起きの不機嫌さを、これでも相当押さえてのこと、
なかなか物騒なことを思っておれば、

 「おとと様にもおやかま様にも見してないのよ? 内緒なの。」
 「……おや。」

肘枕をしてのそっけない応じ方をしていたお兄さんのその枕元、
ちょこりと座り込んだ坊やが神妙そうな言い方をし、

 「そえに あぎょん、ここのいぃぐちの封、弱かったよ?」
 「ああ"? 何だっ…。」

何を言い出すかなと今度こそむっかり怒りかかったものの、
それと同時進行で、あれれ?と今になって気がついた。
小さな地神や精霊らにはわざわざ示さずとも向こうで気づいていようから、
特別な防御なぞ要らないが、
それでもどんな天変地異が起きるかは判らない。
そこでと、誰にも侵させぬようにという封を一応はかけておいての冬籠もり。
地震だ雪崩だという突発的な大地の怒りが襲っても、
空間ごと守る咒を張ってあったはずだのに、

 “………ああ、まあこの子が相手じゃあなあ。”

そいや、昨年の冬もこうして急襲を掛けられたっけ。
さすがに いきなりどっかの空間から…という飛び込み方は出来ないらしいが、
どこにいるのかを嗅ぎ出せて、手で穴を掘っての入って来られる。
体温が下がっていたのを、大変大変と揺すぶり起こされたのが去年の話で、
今回は秋のうち、そこのところを説いておいたから、
今年はそれに比べりゃマシな方ということか。

 「で? 花の芽の話をしに来ただけか?」

後ろ頭をほりほりと掻きつつ、面倒臭ぇなあという態度でもって、
それでも…むくりと身を起こしての向かい合うよに座ってやれば。

 「あのねあのね♪」

他にもお話が一杯あるのと、お兄さんのお膝まで寄る。
胡座をかいたお膝の片方に掴まって、
お腹のところへ巻いてた包みを外してもらって、
それからよいちょとよじ登れば、
後ろへ てんっと落っこちないよう、
大きなお手々が片方だけ、背中へと添えられて。
もう片っぽのお手々は、
仔ギツネさんの小さなお鼻についてた土を拭ってくれている。


  ―― あのねあのね? おやかま様がね、
      あ、おまんじゅ まだ温くといよ? 食べて食べてvv


小さな腕を左右に広げ、時に大きく振り振りしつつ、
年の瀬の話、年明けの話、
家人らのドタバタや、
そうそう、妙なおじさんにくうが連れてかれかけた話とか。
拙いお口がお話しするの、和んだ眸をして聞いてくれる、
今の日之本では三指に入るほど恐ろしい…はずの、
大妖の蛇神様だったそうでございます。


   早く春が来るといいですね?




  〜Fine〜  09.1.15.


  *寒中お見舞い申し上げます。

   自分には縁のない“冬眠”への理解、
   くうちゃんにはまだまだ定着していないみたいで、
   昨年はそりゃあ驚いて“助けに”と飛び込んでったものと思われます。
   大きなお世話もいいトコだったでしょうねぇ。
(笑)
   あぎょんさんが低血圧だとは思いませんが、
   変温動物としての冬眠中に叩き起こされりゃあ、
   本来だったなら途轍もなく怒るはず。
   それがこれで済む辺り、
   どんだけ くうちゃんが気に入りなんだかですね。
(苦笑)
   あの、くうちゃんを強引に攫いかけた興行師は、
   つくづくと不在の時に関わっててよかったことです、はい。

  めーるふぉーむvv ぽちっとなvv

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